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広島高等裁判所 昭和63年(ネ)138号 判決 1990年2月22日

主文

一  原判決を取消す。

被控訴人の控訴人に対する本訴請求を棄却する。

二  被控訴人の参加人に対する本訴請求を棄却する。

三  被控訴人は控訴人及び参加人に対し、別紙物件目録記載の土地について山口地方法務局岩国支局昭和三一年六月一一日受付第四二三一号をもってなされた所有権移転請求権保全仮登記の抹消登記手続をせよ。

四  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人は、本訴につき「原判決を取消す。被控訴人の控訴人に対する請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

参加人はその承継参加により変更された本訴請求の趣旨に対し、主文第二項同旨並びに「訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」旨の判決を求めた。

控訴人及び参加人は、当審において反訴として主文第三項同旨並びに「反訴訴訟費用は控訴人の負担とする。」旨の判決を求めた。

二  被控訴人は、本訴につき控訴人の受継並びに参加人の参加承継に伴い訴えを訂正、変更したうえ「控訴人の控訴を棄却する。原判決を次のとおり変更する。控訴人及び参加人は被控訴人に対し、別紙物件目録記載の土地について被控訴人が山口地方法務局岩国支局昭和三一年六月一一日受付第四二三一号所有権移転請求権保全仮登記に基づき売買を原因とする所有権移転登記手続をすることを承諾せよ。当審における訴訟費用は控訴人及び参加人の負担とする。」旨の判決を求め、控訴人及び参加人の当審における反訴に対しては、被控訴人は反訴提起に同意しないから、本件反訴提起は不適法である旨述べた。

第二  当事者の主張

次のとおり訂正し、付加するほかは原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

一  被控訴人

1  本訴請求原因の付加、訂正

原判決二枚目表九行目の「仮登記」の次に「(以下「本件仮登記」という。)」を加え、同三枚目裏三行目の次に改行のうえ次のように加える。

「8(一) 山口地方法務局岩国支局平成元年五月二五日受付第六一五一号をもって受継並びに参加承継前の亡栗栖肇(以下「一審被告」という。)の本件土地に対する持分二分の一につき、控訴人の為に相続を原因とする所有権(持分)移転登記が経由されている。

(二) したがって控訴人は、被控訴人が本件仮登記に基づく本登記手続をなすにつき、これを承諾する義務がある。

9(一) 本件土地の持分二分の一につき、参加人のために前記支局平成元年三月三日受付第二六二七号をもって真正な登記名義の回復を原因とする所有権(持分)移転登記が経由されている。

(二) したがって参加人は、被控訴人が本件仮登記に基づく本登記手続をなすにつき、これを承諾する義務がある。」

原判決三枚目裏四行目の項番号「8」を「10」に、同六行目の「被告」を「控訴人及び参加人」にそれぞれ改める。

2  抗弁に対する認否、反論

原判決七枚目表八行目から同裏二行目までを次のように改める。

「抗弁1ないし3の事実は、いずれも否認し争う。間が細工一三から控訴人ら主張の条件で借り受けた五万円については、これを担保するため本件仮登記とは別に本件土地に抵当権が設定されているのであって、本件売買予約は右貸金債権担保の目的で締結されたものではなく、本件仮登記も担保のための仮登記ではない。仮にそうでないとしても、一審被告は原審において、細工一三は間所有の本件土地につき売買予約をなし、その予約上の権利を保全するため本件仮登記をしたことを認めていたのであるから、当審において本件売買予約は細工一三が間に貸し渡した五万円の貸金債権を担保するために締結されたものであって、本件仮登記は担保のための仮登記である旨主張することは自白の撤回に該るところ、右自白は錯誤に基づいてなされたものではなく、仮に錯誤に基づくとしてもその錯誤には重大な過失があるから、右自白の撤回は許されない。仮にそうでないとしても、右自白の撤回は時機に後れた防禦方法であるから許されない。4については、本件売買予約の当事者は、予約権利者と予約義務者であるから、その目的物について本件仮登記がなされた後に所有権移転登記を経由した一審被告並びにその承継人である控訴人及び参加人は予約完結権の消滅時効を援用することはできない。5のうち被控訴人が井本清の相続人らから本件土地についての売買予約に基づく予約完結権を無償で譲り受けたことは認める。

3  本訴再抗弁

仮に間と細工一三との間の本件売買予約が真実債権担保の目的でなされたものであったとしても、被控訴人はかかる事実を全く知らないで本件売買予約に基づく予約完結権を取得したのであるから、信義則上そのような事情を善意の第三者である被控訴人に対して主張できないことは、あたかも譲渡担保の目的で所有権の移転を受けた者がほしいままにこれを転売した場合でも、当初の所有者は譲渡担保であることを理由としては当該不動産の取戻しをすることができないのと同様である。

4  反訴請求原因に対する答弁

控訴人らの反訴提起に対して異議申立てをしているので答弁しない。

二  控訴人及び参加人

1  本訴請求原因に対する認否

原判決四枚目表六行目の次に改行のうえ次のように加える。

「7 8及び9の事実中控訴人及び参加人が被控訴人主張どおりの登記を経由したことは認める。」

2  本訴抗弁

原判決四枚目表八行目から同七枚目表六行目までを次のように改める。

「1(一) 間所有の本件土地につき細工一三のためなされた本件仮登記は、細工一三と間とが昭和三一年五月一一日、細工を貸主、間を借主として締結した金銭消費貸借契約(貸金元本五万円、弁済期同年五月末日、利息月五分)に基づく貸金債権(以下「被担保債権」ともいう。)を担保するためなされた売買予約上の権利を保全するためのものである。

(二) 細工一三は、本件売買予約に基づく予約完結権を被担保債権とともに訴外田淵ユキヨに譲り渡し本件仮登記の移転登記がなされた。

(三) しかし、間は昭和三九年二月二六日田淵ユキヨに対して前記貸金債権の元利金一一万三二五〇円を弁済したので、田淵ユキヨの間に対する本件売買予約に基づく予約完結権は消滅した。

(四) したがって、その消滅後に田淵ユキヨから右予約完結権を譲り受けた訴外井本清はいかなる権利をも取得しておらず、井本清の相続人らから本件仮登記の移転登記を受けた被控訴人も同様である。

2  仮に右弁済の事実が認められないとしても、本件仮登記は右のとおりに担保のための仮登記であるところ、その被担保債権は弁済期である昭和三一年五月末日から一〇年を経過した時点で時効により消滅し、同時に仮登記上の権利(予約完結権)も時効により消滅したので、控訴人及び参加人は本訴において右消滅時効を援用する。

3  本件仮登記は、担保のための仮登記であるところ、被控訴人は仮登記担保権の実行に先立って行うべき清算金の見積り額の通知もせず、その支払いもしていないから、その実行すなわち本件仮登記に基づく本登記請求をすることはできない。

(なお被控訴人は、控訴人らが本件売買予約及びそれに基づく予約完結権を保全するための本件仮登記は細工一三の間に対する貸金債権を担保するためになされたものである旨主張することは自白の撤回に該る旨主張するが、控訴人らは右売買予約及び本件仮登記そのものを否定しているのではなく、これを認めた上でそれが本来の売買予約ではなく、細工一三の間に対する貸金債権を担保する趣旨でなされた旨を主張しているにすぎない。すなわち、本件売買予約及びこれに基づく予約完結権を保全するための本件仮登記が債権担保のためになされた旨の事実は被控訴人が立証責任を負う事実ではなく、抗弁事実として控訴人らが主張、立証責任を負う事実であって、控訴人らは売買予約の事実そのものを否認しているのではないから、該主張が自白の撤回に該らないことはいうまでもない。仮にもし控訴人らが右の主張をすることが自白の撤回に該るとしても、右自白は真実に反し、かつ錯誤に基づいてなされたものであるから、その撤回は許される。なお、本件売買予約、本件仮登記が担保の目的でなされたことは、既に提出した証拠で十分証明可能であるから、右主張は訴訟遅延をもたらすものではなく、時機に後れたものということはできない。)

4  仮に本件仮登記が担保のための仮登記ではなく、細工一三の間に対する本来の売買予約上の権利を保全するためになされたものであるとしても、右予約完結権は本件売買予約契約の締結時から一〇年の経過により時効により消滅したので、控訴人及び参加人は本訴においてこれを援用する。

5  被控訴人の本件売買予約に基づく予約完結権の行使は、権利の濫用であって無効である。すなわち被控訴人は、義父にあたる間のために本件土地を無償で入手することを間と共謀し、本件仮登記があることを奇貨として、井本清の相続人らに右予約完結権行使の意思がないことに乗じ、無償でこれを譲り受けて本件仮登記の移転登記を経由し、一審被告が本件土地を取得するに当って出捐した金銭(一四〇万円)等について何の補償もせず、控訴人及び参加人の正当な権利を侵害しようとするものだからである。」

3 再抗弁に対する認否

否認し、争う。前述のように、本件売買予約上の権利(予約完結権)は、間の債務の弁済により既に消滅していたのであるから、仮に被控訴人としては、右売買予約が債権担保のためになされたことを知らなかったとしても、被控訴人は、本件売買予約上の権利を取得するに由ないものである。仮にそうでないとしても、被控訴人は間の女婿であり、間の依頼により同人から本件土地を一〇〇万円で買い受けたというのであるから、当然間から本件仮登記の消長を聞き及んでいるはずであり、しかも被控訴人は、右売買契約にあたって弁護士と相談して本件仮登記に関してアドバイスを受けているというのであるから、間に関して本件仮登記に関する事情を聞き質したうえで右売買契約を締結したものと考えられる。そればかりでなく、間は細工一三に対して本件仮登記をなしたのち、訴外山根正男、同古川渡に所有権移転登記をしているのであって、このことからも本件仮登記が債権担保のためのものであったことは十分推測できるし、その後被控訴人が本件売買予約に基づく予約完結権を行使して本件訴えを提起するまでの二〇年以上もの間、細工一三やその後の本件仮登記上の権利者が予約完結権を行使していないことからも、これが債権担保のためになされたものであり、その被担保債権も既に消滅していることを容易に推測せしめるものであって、被控訴人としては、これらの事実を当然知っていたものと考えられる。

このように、被控訴人は、本件売買予約が債権担保を目的とするものであることを知り、又は容易に知り得たのであるから、被控訴人の主張する如き信義則違反の問題は生じない。

4  反訴請求原因

(一) 本件土地はもと間の所有であったが、その後山根正男、古川渡を経て、昭和三六年四月一三日控訴人の父亡栗栖肇(一審被告)が古川渡からこれを買い受けその所有権を取得した。一審被告は、昭和六三年一一月一〇日死亡したので、その子である控訴人がその持分二分の一を相続により取得し、その余の持分二分の一については、参加人が真正な登記名義の回復を原因として取得した。

(二) 本件土地には、間と細工一三との間で昭和三一年五月一二日売買予約を原因とする山口地方法務局岩国支局同年六月一一日受付第四二三一号をもって所有権移転請求権保全仮登記(本件仮登記)がなされている。

(三) 本訴抗弁1及び2記載のとおり

(四) ところが本件土地につき、前記支局昭和五九年一〇月一六日受付第一二六六三号をもって、被控訴人のために本件仮登記の移転登記が経由されている。

(五) よって、控訴人及び参加人は、反訴として、被控訴人に対し、本件土地についてなされた本件仮登記の抹消登記手続をすることを求める。

第三  証拠関係<省略>

理由

第一  本訴について

一  本訴請求原因についての認定、判断は、原判決七枚目裏七行目の「請求原因1及び2」を「請求原因1、2、8(一)及び9(一)」に改めるほかは、原判決が同行目から同八枚目表三行目までに説示するとおりであるから、これを引用する。

二  そこで抗弁について判断する。

1  売買の一方の予約に基づく予約権利者の権利(予約完結権)はいわゆる形成権の一種であるが、その権利は特定の人(予約義務者)に対する権利であるから、これを債権と同視し、民法一六七条一項の規定により一〇年の時効によって消滅するものと解するのが相当であるところ、本件土地につき間と細工一三との間で売買予約がなされた昭和三一年五月一二日から控訴人が右予約完結権を行使したと主張する昭和五九年一〇月二〇日までに優に二八年以上の年月が経過していることは計算上明らかであるから、右予約完結権の消滅時効がその援用権者によって援用されたときは、右予約完結権は時効によって消滅するところである。

2(一)  そこで本件土地の転得者である一審被告らが右時効の援用権者に該るかどうか検討するに、不動産に関する売買の一方の予約がなされ、右予約上の権利(予約完結権)を保全するため仮登記がなされた場合、その後に当該予約完結権の目的物が第三者に譲渡されても、予約権利者がする完結の意思表示は予約義務者に対してなされるべきであり、目的物を取得した第三者に対してなされるべきではなく、この者は右売買の予約につき何らの義務を負担するものではないから、この点のみを見る限りにおいては、当該第三者は時効により直接の利益を受ける者に該らないと解し得ないではない(大審院昭和九年五月二日判決民集一三巻九号六七〇頁参照)。

(二)  しかしながら、売買の一方の予約に基づく予約権利者の権利は特定の者(予約義務者)に対する権利ではあるが、これを登記(仮登記)することによって第三者に対しても主張することができることとなるところ、売買の一方の予約がなされこれを保全するため仮登記がなされた後にその目的物を取得した第三者は、予約権利者により予約完結権が行使され、これにより予約権利者が目的物の所有権を取得するときは、右仮登記の効力により当然に所有権を失う地位にあるから、当該第三者は右予約上の権利(予約完結権)の時効消滅により直接に利益を受ける者として当該予約完結権の時効消滅を援用しうる者に該当するものと解するのが相当である。このことは、不動産登記法一〇五条、一四六条の規定によれば、右予約権利者が予約義務者に対して予約完結権を行使して仮登記に基づく本登記をしようとするときは、右予約完結権を行使して目的物の所有権を取得した予約権利者は、仮登記のままで仮登記後に所有権移転登記を受けた第三者に対しその本登記をなすについての承諾請求権を有する一方、右第三者はこれを承諾する義務を負うものとされ、右予約権利者が、右第三者の承諾書(又はこれに対抗することができる裁判の謄本)を添付して本登記を申請し、これが登記がなされたときは、予約義務者と右第三者との間で経由された所有権移転登記は職権で抹消すべき手続構造をなっていることからも首肯されよう。

(三)  而して一審被告が既に原審第二三回口頭弁論期日において本件売買予約に基づく予約完結権の消滅時効を援用したこと(控訴人及び参加人も当審において右消滅時効を援用していること)は記録上明らかであるから、被控訴人の行使にかかる予約完結権は時効により消滅したことになるから、被控訴人が右予約完結権を有効に行使したことを前提とする本訴請求は理由がなく、これを棄却すべきである。

3(一)  また、<証拠>によれば、間は昭和三一年五月一一日細工一三から金五万円を弁済期同月末日、利息月五分の約で借り受け、その債務を担保するため本件土地につき細工を予約権利者とする売買予約をし、同年六月一一日売買予約による所有権移転請求権保全の仮登記(本件仮登記)を経由したこと、細工一三は、昭和三八年一一月五日訴外田淵ユキヨに対し右貸金債権とともに本件仮登記をもって保全された右売買予約に基づく完結権を譲り渡し、同日付で右債権譲渡を債務者である間に通知し、右通知は同月六日頃間のもとに到達し、同月九日受付第一〇五七二号をもって本件仮登記の移転登記が経由されたこと、間は昭和三九年一一月二六日田淵ユキヨの代理人西村正司に対し右貸金債権の元利金一一万三二五〇円を支払い、一方西村は本件仮登記の抹消に必要な田淵ユキヨの委任状並びに印鑑証明書を同月二七日に間に交付することを約束しながら、同月二六日訴外井本清に対し右貸金債権及び本件仮登記をもって保全された売買の予約完結権を代金一一万三二五〇円で譲り渡したことが認められる(被控訴人は、本件売買予約は細工一三の間に対して有する前示貸金債権を担保する目的でなされたものではない旨主張し、<証拠>によれば、間と細工とは、昭和三一年五月一一日前示賃金債権を担保するため本件土地につき抵当権を設定することを約したことが認められるが、抵当権の設定に代えて(現に右抵当権の設定登記がなされたことを認めるに足る証拠はない)、又はこれに併せて担保のための仮登記を経由することは巷間しばしば行われるところであるから、このことだけでは右認定を覆すに足りず、他に右認定を覆すに足る証拠はない。)ところ、右認定事実によれば、本件仮登記は細工一三の間に対する貸金債権を担保するため同人らの間で締結された売買予約に基づく権利(予約完結権)を保全するためになされたものであるから、その被担保債権である貸金債権が右貸金債権の譲受人である田淵ユキヨに対する弁済により消滅したことにより、本件仮登記に係る予約完結権も当然消滅したというべきであり(仮に間から右貸金債権の弁済を受ける直前に田淵ユキヨが右貸金債権並びに本件仮登記に係る予約完結権を訴外井本清に譲渡していたとしても、田淵ユキヨが右債権譲渡を債務者である間に対して通知したことを認めるに足る証拠はないから、井本清はその譲受をもって間に対抗することができず、右貸金債権並びに右予約完結権は弁済により共に消滅したものといわなければならない。)、したがってその後は本件仮登記に係る予約完結権は存在せず、本件仮登記は実体を伴わないものとしてその効力を有しないから、これを譲り受けた井本清、更に井本清の相続人らからこれを譲り受けた被控訴人は右予約完結権を取得するに由ないものといわなければならない。

(二)  被控訴人の再抗弁は、井本清が本件仮登記に係る予約完結権を譲り受けた際にはこれが有効に存在したことを前提とするものであるが、右認定のとおり、井本清の譲受の際既に右予約完結権はその被担保債権の消滅により消滅していたのであるから、その余の点について判断するまでもなく失当として排斥を免れない。

そうだとすると、被控訴人の本訴請求はこの点からも、失当として棄却すべきである。

(なお、被控訴人は控訴人らの本件仮登記が担保のための仮登記である旨の主張に対し、自白の撤回にあたる等として異議を申し立てているが、自白とは相手方の主張する自己に不利益な事実を争わない旨の意思を表明する陳述であるところ、被控訴人が本件土地につき間と細工一三との間に売買予約がなされた旨を主張したのに対し、控訴人らは、当初これを認め、後にこれが債権担保のためになされた旨を付加して主張したにすぎないものであって、「売買予約の事実を認める」旨の陳述自体はそのまま維持されている、すなわち本件の場合右売買予約は債権担保のためになされた旨の陳述はいわゆる理由付否認でなく制限付自白に当り、右売買予約が債権担保のためになされたことについては控訴人らに証明責任があるのであるから、右陳述が自白の撤回に該らないことはいうまでもない。また、控訴人らは当審第二回口頭弁論期日において本件売買予約に基づく本件仮登記は債権担保の目的でなされた旨主張し、これを立証するため既に第一回口頭弁論期日において文書送付嘱託の申請をしているのであるから、右主張が時機に後れた防禦方法に該らないことは明らかである。)

第二  反訴について

一  被控訴人は、控訴人及び参加人らの当審における反訴提起について異議がある旨主張するので先ずこの点について判断するに、控訴審における反訴の提起について相手方の同意を必要とするのは、相手方の有する審級の利益を保護するためであるから、この利益が侵害されるおそれが全くない場合には、民事訴訟法三八二条一項の規定にかかわらず相手方の同意は不要であると解すべきところ、被控訴人の本訴請求と控訴人の反訴請求とは請求の基礎を同じくする(すなわち本訴請求における控訴人らの抗弁が認められれば控訴人らの反訴請求も即認容される関係にある)から、事実審理の範囲は一審のそれと殆ど同一であって、被控訴人の同意なくして控訴人らの反訴提起を許しても被控訴人の審級の利益を奪うことにはならないものと解されるから、本件反訴の提起は被控訴人の同意がなくとも適法であるというべきである。

二  <証拠>によれば、間は昭和三一年一二月二八日訴外山根正男から金一五万円を弁済期同三二年五月三一日の約で借り受け、右債権担保のため本件土地を含む間所有の土地四筆を譲渡担保としてその所有権を右訴外人に移転し、昭和三二年一月七日売買を原因とする所有権移転登記をしたこと、ところが間は手元不如意のため右借受金の返済の見込みがつかなかったので、訴外古川渡から金銭を借り受けて右借受金を弁済し、古川は右貸金債権の担保として同人の間に対する譲渡担保権を譲り受け、本件土地等について所有権移転登記を経由したこと、一審被告栗栖肇は昭和三六年四月一三日松尾新三と共同で右古川渡から本件土地を含む前記四筆の土地を買い受け、同人とともに本件土地の持分各二分の一宛を取得したが、便宜一審被告単独名義で同日受付第三一六七号をもって所有権移転登記をうけたこと、一審被告は昭和六三年一一月一〇日死亡し、その子である控訴人は相続により本件土地の共有持分二分の一を取得し、前示相続による共有持分権移転登記を経由したこと、松尾新三の子である参加人も相続により本件土地の共有持分二分の一を取得し、真正な登記名義の回復を原因とする前示共有持分権移転登記を経由したことが認められる。

また、本件土地につき山口地方法務局岩国支局昭和三一年六月一一日受付第四二三一号をもって所有権移転請求権保全仮登記(本件仮登記)がなされていること、本件仮登記が既にその実体を欠く無効の登記であることは既に本訴について見たとおりであり、<証拠>によれば、山口地方法務局岩国支局昭和五九年一〇月一六日受付第一二六六三号をもって被控訴人のために本件仮登記の移転登記が経由されていることが認められる。

よって、控訴人及び参加人の反訴請求はすべて理由があり、これを認容すべきである。

第三  結論

以上の次第で、被控訴人の一審被告に対する本訴請求を認容した原判決は相当でないから、これを取り消して被控訴人の控訴人に対する本訴請求(訴え変更による訂正後のもの)を棄却することとし、被控訴人の参加人に対する本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、控訴人及び参加人の当審における反訴請求は理由があることからこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 篠 清 裁判官 宇佐見隆男 裁判官 矢延正平)

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